アマゾン「なか見!検索」って、どうよ?

lelele2006-02-22


1月29日付の業界紙新文化」の1面に、「アマゾン『なか見!検索』についての紙上議論」という記事が掲載されました。「紙上議論」は、言語学出版社フォーラムという組織の代表である岡野秀夫さんによる、「アマゾンに対する危惧」という文章を基本提言とし、それに対していろんな立場の人が意見を述べるかたちになっています。

くわしい内容は「新文化」を読んでいただくとして、以下に発言者と発言の要点のみ記します。基本的に、岡野さんが提示している「反対する理由」の是非をめぐって、他の方が意見を述べています。

岡野秀夫さん(言語学出版者フォーラム代表)
「アマゾンに対する危惧」
・出版社は自らコンテンツ価値極大化を。「利用する側」になるべき
・彼らは「書店」ではない。地球規模で覇権を争う巨大世界企業であり、コンテンツの内容よりもテクノロジーと資本の論理で動く会社だ
・そういう会社からのコンテンツ提供の要請に、出版社は慎重になるべき
・「なか見!検索」の出現で、出版界を支えてくれた書店の利益は、減るのではないか
<岡野さんが「なか見!検索」に反対する理由>
①このシステムは読者の利便性に適っているか? イエス
②それでは、著作権者、出版者の利益になるか? ノー
③今まで出版界を支えてくれた書店の利益になるか? ノー

高須次郎さん(流対協会長、緑風出版代表)
「出版者の存亡に関わる――結集し組織的に対応を」
・新品とユースドを並列販売するのは、出版社への営業妨害
・読者サービスの美名の下に本のコンテンツすべてをネット書店がスキャンすることを許したら、出版社の存亡にかかわる恐れがある
著作権ビジネスとして組織的に対応していかないと、IT企業の前で出版社は埋没する

福島聡さん(ジュンク堂書店池袋本店副店長)
「ネットシステム、書店も利用――座り読み歓迎の現場から」
・書物は、実際にコンテンツの一部を確認した上で「読んでみよう」という欲求(=需要)を生み出す商品
ジュンク堂では座り読み用の椅子・机を設置しているが、それらが売上げにマイナスの効果をもたらした感触はない
・インターネットは「開かれた空間」であり、リアル書店がネット書店のサイトを利用することは日常的。よって、「なか見!検索」はアマゾンによるコンテンツの「囲い込み」には、なりえない
・ただし、データが容易にダウンロードできる点には注意が必要

安藤哲也さん(楽天ブックス店長)
「相手にないもの追求――リアルとネットの共存は可能」
・「図書館栄えれば書店も栄える」の論理で、リアルとネットの共存は可能
・賢い読者はリアルとネットをうまく使い分けている
・互いに相手にないもの(サービスや売れ筋)を追求すれば、リアル書店とネット書店は共存できる

匿名(「なか見!検索」に参加している出版社の営業職)「読者動かす進化重視――出版社・書店こそ努力を」
・書店の利益にならない、とはいえない。ネットで検索してリアル書店で買う人は多い
・従来の売り方のまま進化しようとしない、多くの出版社や書店に問題がある
・アマゾンの問題点は、データを拾いきれていないことと「マーケットプレイス

以上が紙上で議論されたことのポイントです。あくまでも私の要約なので、くわしくは「新文化」本紙を参照してください。

なか見!検索」については、岡野さんと高須さんが反対、福嶋さんと安藤さん、匿名の方が賛成となっています。
私の立場を、上記の岡野さんによる三つの問いかけに答えるかたちであらわすと、以下のようになります。

①このシステムは読者の利便性に適っているか? イエス
これは、説明するまでもないですね。「なか見!検索」に反対している方も認めざるを得ない。
②それでは、著作権者、出版者の利益になるか? イエス
はじまったばかりのサービスに対して、なぜ著作権者や出版者の利益に「ならない」といえるのでしょうか。著作権者によっては、出版者が作品を囲い込むよりも、ネットでみずからの作品が広く読まれ、参照されることを喜ぶ可能性があります。さらに、「なか見!検索」によってリアル書店の本が売れなくなるということが実証されないかぎり、売上が横ばいであるか、前より上がっている可能性も否定できません。したがって、著者に払う印税額が上がるのか下がるのかもわからず、本の売上が上がるのか下がるのかもわかりません。わからないのに、著作権者や出版者の利益に「ならない」と決めつけてしまうのは、どうなのかなあと思います。

③今まで出版界を支えてくれた書店の利益になるか? イエス
これは福嶋さんが説明してくれています。リアル書店で立ち読みしても、ネット書店で立ち読みしても、リアル書店の売上げが下がるとは限らないということだと思います。ジュンク堂の椅子に座って、ある本の全文を読むことも、アマゾンの「なか見!検索」である本の全文を読むことも、読者にとっては同じく「読んでみようという欲求」を生み出す契機になりえる、ということでしょう。

反対派の意見を読んでいて感じることは、第一に新しいシステムに対する恐れです。見たことのない怪物が目の前にあらわれ、その怪物が自分らの味方かもしないのに、驚きのあまり相手のことをよく知る前の段階で敵視してしまう。たしかに、新しいシステムは先行きが不透明です。とはいえ、ネットのシステムは不可逆に進んでいくし、そのシステムで動いていくネットが開かれた空間であることは、今後も変わりのないことでしょう。
ならば、そのシステムを止めようとしたり、逆行させたりするのではなく、システムに乗っかったうえで、出版者や著者が開かれた態度を示すことは、しかたのないことだと思うし、必然的なことだとも思います。よくわからないから拒絶するだけでなく、よくわからないから試してみるというのも選択肢のひとつです。試してみて、ダメだと思ったら、その時点でやめればいいことです。
第二は、利権確保の匂いです。ネット上で著作権という場合、基本的には「権利の保護」というよりも「申し合わせ」程度の意味になるのではないか、と私は考えています。コンテンツを提供する側と、それを利用する側の「良心」のみが、かろうじて著作権なるものを保護する武器になりえるような気がするのです。
よって、「なか見!検索」に反対するよりも、安易なコピーやダウンロードは著者や出版社に対していかなる影響を及ぼすのかという啓発をおこない、コンテンツを提供する側と利用する側の「良心」とが、しっかりと「申し合わせ」できるような環境を整えることのほうが、意味があると考えます。
ある出版社がネットとの関係を一切断ったとしても、その出版社の作品や作品の一部はネット上に流通し、著作権を無視したコピペが減ることはないと思います。ネットがそういった「何でもあり」の状況であるにもかかわらず、ネット上での著作権を声高に主張するのは、あまり意味のあることとはいえません。出版の著作権ビジネスをおこなう人や団体が、ネット上の著作権侵害を監視するようなシステム(JASRACがやっているような)を構築できるというのでしょうか。おそらく堂々巡りになって、いくらお金があっても足りない状況になるのが目に見えています。

こんなことを書いていると、老舗中小零細出版社のおじさんたちから、ますます相手にされなくなるのかもしれませんね。別にいいんですけど。

以上の論点に関連して、Hotwiredいとうせいこうさんがやっているインターネット投票は、書店人だけでなく、出版人や読書人も要チェックです。「本のことなんですが、ウェブ上で注文する習慣がついてしまい、めっきり書店に行かなくなりました。行動形態の変化に自分でもとまどってます。皆さんはどうなってますか?」といういとうさんの問いに、「いや、やっぱり書店にはこれまで通り行っている」「行く機会は確かに以前より少なくなった」「ほとんど行かずに、ウェブ上で本を買う」「全面ウェブ」「書店でもウェブでも本自体買わない」という五つの選択肢が提示されています。投票の状況のみならず、回答者のコメントもひじょうに参考になります。
http://hotwired.goo.ne.jp/webvoter/?id=18