NEWSの話(小田嶋隆さんのコラムより)

 定期購読している『ASAHIパソコン』で、一番面白いのは小田嶋隆さん(自称テクニカル・ライター?)の連載「価格ボム!」です。さまざまなモノやサービスなどの「値段」をキーワードにして、世の中の不条理を縦横無尽に斬っていきます。(そういえば、休刊になった『噂の真相』の連載も面白かったなあ……)

 今週号(9月15日号)のお題(=本日のお値段)は、「1000円以上1万円未満」。副題は「未成年と知りつつ酒を飲ませた監督者に科せられる罰金(科料)」。いうまでもなく、フジテレビの女子アナが、ジャニーズ事務所所属のNEWSの「メンバー」に酒を飲ませた、という事件の話がメインのネタとなっています。
 小田嶋さんは、話と話のつなぎがとっても上手ですね。プロだから当たり前なのかもしれないけど、短いコラムでいくつもの話をつなげるのは、けっこう難しいことだと思います。今週号の記事でいえば、「NEWSという言葉の由来」→「ニュースは新しくない」→「NEWS未成年メンバー飲酒問題」→「巨大プロダクションとマスコミの関係」→「事件の詳細」→「事件の報道のされ方(テレビ)」→「事件の報道のされ方(新聞)」→「まとめ(ニュースは広告プロモーションのおまけ)」という感じ。
 いくつか面白い文章をとりあげてみましょう。

 結局、「NEWS」は、「新しい」を意味する「NEW」に由来する単語だということになるわけだが、当然のことながら、常に新しいわけではない。
 それどころか、むしろ、ニュースの享受者であるテレビ視聴者および新聞購読者は、耳慣れない新情報より耳タコな常套句を喜ぶ傾向にある。

 面白いものです。この部分は、ただいま編集中の本(仲正昌樹著『デリダの遺言』)で仲正さんが言いたかったこと(だと編集屋の私が感じたこと)にカブるのです。視聴者や購読者が受け入れる「生き生き」とした情報とは、結局、いかに新しいかということよりも、いかに「わかりやすく」、「耳心地がいい」ものなのかが重視される傾向がある。しかし「わかりやすく」「耳心地がいい」言葉(=「生き生き」とした言葉)だからといって、それが「信用に値するに言葉」だとはかぎらない。だから「生き生き」とした言葉には、気をつけよう。小田嶋さんも仲正さんも、そう警鐘を鳴らしているように思えます。

 この飲酒事件について、なぜテレビメディアが報じなかったのか、という点について、小田嶋さんは以下のように記します。

 もう少し具体的に言うと、事件の一方の当事者であるフジテレビにとって、当該タレントの所属プロダクションであるジャニーズ事務所は、神聖不可侵な相手だったわけだ。相互利権供与体制。

 まったくそのとおりなのですが、新聞や雑誌でマイナスの意味において「ジャニーズ」という言葉を使うのは、なかなか勇気のいることです。ちょっと書いただけでも、「よくもASAHIパソコンで書いてくれたねえ。テレ朝の番組や朝日新聞に、ウチのタレント、出せなくなるかもしんないよ」なんてことに、なる可能性がないわけではありません(すこしビビって、バカボンのパパのように、まわりくどい表現になってしまいました……)。
 さすが小田嶋さん。

 さらに、「フジテレビの女子アナがNEWSのメンバーに酒を飲ませた事件」を、テレビ各局も新聞もほとんど報道しなかった事態を受けて、小田嶋さんは以下のようにまとめます。

 結局、このニュース(っていうかニュースの不在)から伝わってくるのは、事件の真相ではない。
 NEWSがわれわれに教えているのは、事件報道の枠組みが、情報を媒介とした弱い者イジメに堕してしまっているメディアの現状と、ニュースなんて広告プロモーションのおまけにすぎない、という現場の絶望。

 これまた、そのとおり。報道に関わるメディア関係者に、このコラムを読んでもらいたいものです。ていうか、メディア関係者もきっと、そのことは自覚はしているんでしょうけど、なかなか認めたがらないんですよね。皮を一枚めくれば、「報道の正義」とか「社会の番犬」だなんておっしゃるのがギャグにしか聞こえない、小田嶋さんが指摘するようなチャンチャラオカシイ実態があるわけです。
 生中継であろうと何であろうと、報道なんて、すべて恣意的になされているってことを、幼少の頃からわかっておいたほうがいい。誰に話を聞くのか。聞いた話のうち、どの部分をテレビで放映するのか。どこの現場を撮影するのか。どこからどこまで画面に入るように撮るのか、etc……。なんとなく客観的に報道している、と見せかけることはできるけれど、本質的な客観報道なんてあり得ません。だから報道を、疑うクセをつけておいたほうがいい。
 見たり読んだりする側も、メディアのチャンチャラオカシイ実態を理解したうえで、テレビを見たり新聞を読んだりしましょうね。小田嶋さんがコラムで、そう問いかけているような気がしました。
 なんだ、またメディア・リテラシーの話になってしまいましたねぇ。