『チマ・チョゴリ制服の民族誌』書評――日経新聞――

2006年6月28日付け日本経済新聞夕刊の「目利きが選ぶ今週の3冊」で、井上章一さん(風俗史家)が『チマ・チョゴリ制服の民族誌』を選んでくれました。ピーター・ブラウン著『古代から中世へ』(後藤篤子訳、山川出版社)が三つ星、斎藤環さんと酒井順子さんの共著『「性愛」格差論』(中公新書ラクレ)も三つ星で、チマ・チョゴリは堂々の五つ星です!
以下、井上さんによる書評を引用します。

時代の証言者掘り起こす
いわゆる朝鮮学校の女生徒立ちは、チマ・チョゴリとよばれる制服で学校へかよっている。通学服で、自分たちの民族性をしめしてきた。
もっとも、伝統的なチマ・チョゴリが、そのまま踏襲されているわけではない。現代的な洋装にもなじむよう、それらはあらためられている。
男子生徒たちの制服は、日本のそれとかわらない。民族性は、もっぱら女性とが着る服であらわされている。そこに、民族性の表現は女性の役割だとみなす、男性社会の要請を読み取ることは、たやすかろう。
しかし、チマ・チョゴリの制服化を、男たちがおしすすめた形跡はない。それは、一九六〇年代はじめごろの朝鮮学校で浮上した。帰国運動の高揚で民族精神にめざめた女教師や女生徒が、自発的に着用しだしたのである。それまでは、朝鮮学校でも、セーラー服が制服だとされていた。
著者は、六〇年代初頭にチマ・チョゴリを着はじめた女性をさがしだし、当時の様子をほりおこす。その取材ぶりは、たいへん刺激的である。民俗と性別役割のありように興味のある人なら堪能できることをうけあおう。文章も若々しい。(井上章一

※以上、日本経済新聞、2006年6月28日付け夕刊より引用