笑いは世界を包む


本日未明、テレビをつけてみたら、異国の地で「ひょっとこ踊り」を踊っているふたりのおっさんが目に飛び込んできました。番組表を見ると「FNSソフト工場『北緯32度の旅〜幸せを運ぶひょっとこ踊り!!〜』」という番組でした。


宮崎県にある橘ひょっとこ保存会の会長と副会長が、北緯32度の位置にある国々をまわり、踊りをとおして現地の人びととの交流をする、というのが番組のコンセプト。テレビ番組は、企画書をとおして予算をゲットするのが一苦労なのですが、よくこの番組に予算がついたなあと思いました。すばらしい!


素人のおっさんふたりが、ネパールとモロッコ、そしてアメリカをまわり、各所の観光地を見学し、名物料理を食い、現地の伝統舞踊などを見学したあと、そのお返しとしてひょっとこ踊りをおどるわけです。巡回する根拠は、北緯32度の位置にある場所。意味がないといえば意味がない。無駄といえば無駄。でも、ケラケラ笑いながら、最後まで見てしまいました。


じつはわたくし、カンボジア滞在中に「お笑いをやりたいなあ」と真剣に考えていました。目立ちたいとか芸人になりたいという思いはありません。押しつけかもしれませんが、たいへんな目にあって沈んだ気分の人びとに、一瞬でも楽しい気分になってもらいたい。滞在中になんとなく、そんなことを思い続けていたのです。


その予行練習は、調査に入った農村などでやったりしました。テレビのお笑いを見聞きして、カンボジアの人びとの笑いのツボがなんなのかを学習し、それを元に調査中の会話などにギャグを混ぜこむのです。これが、けっこうウケるんです。そもそも、外国人がカンボジア語をペラペラ話していること自体がギャグに近いものがあるので、そこにちょっとしたネタを入れ込めば、それだけでもけっこうウケました。


で、ひょっとこ踊り。各国の人びとにウケてましたね。笑いと踊りの力は、すごいなあと思いました。踊りには、言葉など必要ありませんから。自身の経験から、国際交流などというものは、そう簡単にできるものではないと私は考えています。とくに、学者や公務員などではなく、一般の人同士の交流は、なおさらむずかしい。国際交流とか、さらりといえちゃうような人には、うさん臭さを感じたりもします。


だがしかし、ひょっとこ踊りから入っていけば、意外に一般の人同士でも浅い交流が可能なのではないか、などと番組を見ながら思いました。私の経験からも、そう思います。まあ、ひょっとこ踊りにかぎらず、笑いから入っていくことがたいせつだということですね。笑いをユーモアと言い換えてもいいでしょう。小難しいことから入るのではなく。


カンボジアでボランティアをやっている日本人をたくさん見てきましたが、ユーモアが足りない人がなんと多いことか。飯を食いながら「援助について」「開発について」など語らせると、私など口がはさめないくらい饒舌になるのに、村に入るとクソまじめな児童施設の指導員みたいな調子で現地の人と接している日本人が目立ちました。


しかしまあ、おっさんふたりのコメントは、宮崎弁が炸裂し、内容はごくごくフツーで、観光客と変わらないじゃないかと思いつつ、ひょっとこを踊り出したとたん、カッコいいおっさんに変身していました。そんなおっさんのひとりである橘ひょっとこ保存会の会長が、番組の最後に「笑いは万国共通」といっていたのが、当たり前の言葉ながら印象的でした。


笑いは世界を包む、のかもしれません。