本にまつわる「うさんくさいボランティア」

lelele2007-04-09



先日、こんなファックスが届きました(写真参照)。

保存版!!出版社 社長様 必見です。
廃棄本、断裁本 捨てるならボランティアに役立てませんか!!
長期在庫、返品本、廃棄予定の本などございましたら、お見積もり後、買取いたします


ボランティア団体 本を贈る会 からのお願いです。
御社様に廃棄予定の本、(文庫、DVD付きブック、漫画等その他書籍全般)
などは御座いませんでしょうか、無料で回収、そして買取りに王子させていただきます。


私共は本を病院、児童擁護(原文ママ)施設、介護施設などの特定施設に無料贈呈する、ボランティアです。
病院や各種施設には本のコーナーが必ずあるのはご存じの事と思いますが、これらの本は入所者が置いていった本などもありますが、ほとんどは我々の様な民間ボランティアが贈呈しています。


本が足りません、ジャンルを問わずお気軽にお問い合わせ下さい。

(中略)

本をお譲り戴きました出版社より廃棄、断裁予定の書籍が現金化できる事、その書籍が社会貢献される事に当会への感謝の声がいくつも寄せられております。是非ご検討下さい
現在、120社の出版社様のご協力をいただいております。

お問い合わせ先(省略)
電話(省略)
メール(省略)

このファックスを読んで、この「本を贈る会」に本を提供する出版社はあるのでしょうか。さすがにないでしょう。うさんくさすぎるではありませんか、この文面。ツッコミどころ満載ですし。


●買い取る本の財源はいかに?
「注、」として「買取り本の価格は当ボランティアの趣旨に賛同いただいている協賛企業様(34社)からの寄付金にてお支払いするものです」とファックスには書かれています。
ふむふむ。出版社からの寄付金が、買い取る本の財源なんですか。ならば、せめて代表となる数社の社名くらいあげてほしいものです。そうしないと「ほんとかよ?」って思わざるをえません。


●寄贈することに対する「感謝の声」はいずこに?
買い取られた本が「社会貢献される事に当会への感謝の声がいくつも寄せられています」とファックスには書いてあります。いったいどこの誰がこの会に感謝しているのでしょうか。社会貢献とまで書いているんですから、個別具体的な団体名などを含めたかたちで、本を寄贈された側の声を紹介するのは当然だと思いますが。これも「ほんとかよ?」と思わざるをえません。


●買い取った本は、ほんとうに転売されないのか?
ファックス内の「注、」には、「バーゲンブックとして当会が販売、及び市場に流通させることはありません」と書いてあります。これをひるがえせば、バーゲンブックとして「同会が」消費者に直接販売することはないことと、新古書として「同会が」直接市場に流通させないということになります。つまり、同会がブックオフなどの業者に売り、その業者が同会から買った本を消費者に販売することはない、とは書かれていません。これでは「ほんとにブックオフに売らないの?」と思わざるをえません。


私はカンボジアで、「援助」や「貢献」を建前にして支援者から集めたお金を、個人的に使ったり、「援助」「貢献」以外の目的で使っているケースを、何度も目にしました。「それでもいいや」と思って支援してくれている器のでかい人にとっては、それでもいいかもしれません。でも、フツーの場合は、お金を集めるための建前以外で集めたお金が使われていたら、支援者は怒るのが当然でしょう。


本件の場合、本が買い取られることによって、支援者としての本を提供する出版社が一旦、「いい気分」になってしまうのがミソです。「いい気分」になれば、買われた本がどうなろうと知ったことはない、となりがちでしょう。本を買ってもらった出版社も「いい気分」になるし、本を買った人たちが転売すれば「いい気分」になれるんだからいいじゃん、と考えるかもしれません。


私は、在庫の山を買ってもらっても、本を買った人たちが転売しても、けっして「いい気分」にはなれませんね。すくなくとも、買われた本がほんとうに福祉施設介護施設などに寄贈されているのなら、「すこしいい気分」になるかもしれません。しかし、そんなことをしてくれるのなら、別に買い取ってくれなくてもいいです。無料で差し上げます。


それに、買い取るにせよ、寄贈するにせよ、発行年月日が最近の本を弊社が同会に提供したら、新刊で出したときに定価で買ってくれた読者に対し、あまりにも申し訳ないじゃありませんか。たとえば、新刊として市場に流通させていたが、売れなくて大量の在庫を抱えたとします。それを三カ月後に同会へ寄贈または販売した。その本がブックオフなどで、大量かつ安価で出回る……。倫理とかは、あまり口にしたくありませんが、この状況はやはりマズいでしょう、読者に対して。


というわけで、私はこのファックスを読んで、即座に「うさんくさいボランティア」だなあと感じました。
ボランティアというマジック・ワードを入れると、たしかに文書内容の格調がすこしあがったような錯覚にとらわれたりするかもしれません。でも、ボランティアと銘打つのならば、最低限の情報として、支援する側(本を提供する出版社や趣旨に賛同している出版社)と支援される側(団体名、施設名、病院名など)の所在を明確にする必要があります。


そもそも私がボランティアと名の付くもの全般に、ある種のうさんくささを感じていることは、このブログで何度も書いたとおりです。
このファックスには電話番号が書いてあります。もしかしたら突撃レポーターのノリで、同会に連絡してみるかもしれません(笑)
担当者の方は、上記の疑問に対して、いったいなんて答えるんだろう?