ダメな外務省の粋な人事


まず、海外に長く滞在してみて、日本国外務省ってダメな役所だなという感想を持ちました。滞在する国や滞在した立場などによって、いい役所だと思ったりする人もいるのかもしれませんが、とりあえず私はダメだと思いました。
あと、外務省全体というよりも、その出張所としての大使館というふうに、個別具体的なダメさ加減を指摘したほうがいいのかもしれません。が、長く滞在しているうちに、大使館の元締めがダメだから、末端もダメなんじゃないかと思うようになりました。


以下、体験にもとづくダメな理由。
現地の法人を保護するといいながら、保護されないことがある。
治安が悪化しても、まともな情報を提供しないし、情報を持っていない。
以上の2点は、大使館による「選民思想」が影響しているのかもしれません。「選民」の基準は、どんなお仕事をしているのか、ということです。その一端は「双風亭日乗」の以下のエントリーにも書きました。

http://d.hatena.ne.jp/lelele/20050507/p1
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20050509/p1
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20050510/p2
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20050511/p1

さらに、大使館のトップである「特命全権大使」という役職が名誉職になっており、その国にほとんど脈絡がない人物が、いきなり着任することが多かったです。欧米や中国、そしてロシアなど「重要」な国では、あまりそのようなことはないのでしょうけど、カンボジアのような「重要」でない国の大使人事は、まさに名誉職的な雰囲気をかもしだしていました。


外務省職員の試験は、官僚になる第一種と技術職の第二種(電気、通信など)、行政職などの第三種、そして言葉の専門家としての「専門職員」に分かれているようです。
通常、大使になるような人は第一種の合格者、かつ省内でそれなりの権力を持てるようになり、審議官や事務次官にはなれないような人なのでしょう。私の滞在した12年間、カンボジアでは、そういう人が大使として着任していました。
で、商社の人とゴルフで握って問題になったりしていたわけですね(笑)。


現地で大使館の様子を見ていると、上記の区分でいう「専門職員」の役割がとてもたいせつに思えます。彼らは、現地の要人と大使らの通訳や現地の役所とのパイプ役などを担当します。長年続けていれば、現地の人びとのパーソナリティへの理解が深まるし、人脈も拡がります。
素人の考えでは、そういう「専門職員」が出世して大使になるのが、現地と日本との架け橋になるという大使館の役割からいっても、認知度が高いので現地の人から受け入れられる可能性が高いという意味でも、よいのではないかと思っていました。そして、そういう人がなかなか大使にならない状況(たいてい公使どまり)に、やきもきすることが多かったんですね。


じつは、1975年4月から1992年3月までの17年間、内戦状態にあったカンボジアには、日本の大使館がありませんでした。1992年に大使館が設置されるわけですが、当時のカンボジアの政治状況は相当に複雑でした。また、国連が暫定統治機構(UNTAC)をつくるなど、一時的にカンボジアが世界から注目されていました。
さすがに外務省も、そんな状態の国に名誉職の人が大使としてポンと配置されてもよい働きができないと思ったのでしょうか。92年の大使館設置時に大使となったのは、長年、「専門職員」としてカンボジアに関わった経験のある今川幸雄さんでした。


このときは、めずらしく「外務省、ナイス人事!」と思いましたね。今川さんは、アンコール遺跡に関する著書があるくらい現地の事情に精通しているし、もちろんカンボジア語も問題がありません。現地の政府要人に旧知の人物も多かったようですし。しかしながら、よかったのは最初だけで、そのあとは例によって名誉職人事的な人が、ずーっと大使に着任していたんです。


ところが……。
先月20日に、今川さんにつづいて「専門職員」出身の篠原勝弘さんがカンボジア大使に就任したのです。このニュースを、カンボジアで一緒に働いたことのある方(日本人)のブログで知ったのですが、「たかが長期滞在したことのある国の大使の人事で、こんなにうれしい気持ちになるのか」と自分を疑うくらいうれしいニュースだったんですね、これが。
そのブログにも、言葉に言い表せないくらいうれしいという雰囲気が漂っています。

http://ameblo.jp/cambodian-life/entry-10031311633.html

今回、長々と書きましたが、とどのつまりは篠原さんが大使に就任したことに対するうれしさを表現したかったのです。他国の、それも大使館の人事でこんな気持ちになるなんて、自分でも不思議なのですが。


篠原さんという方のすばらしさは、言葉が達者であるとか人脈があるなど、いくつもあります。とはいえ、私が身をもってすばらしいと感じたのが、上記でも書いた外務省職員(とくに大使館職員)にありがちな「選民思想」がないということです。日本人同士でもそうですし、対カンボジア人でもそうでした。
そういう方だったので、私は何かしら問題が起きて、大使館と接触せざるを得ないときには、いつでも篠原さんに相談していました。そして篠原さんは、超多忙であるにもかかわらず、いつも真摯に接してくれました。相談する気にもならないようなダメ職員がが多いなか、味噌っかすのような立場で長期滞在している者に対しても、ほんとうにやさしい人だったのです。


そういう方がカンボジアの大使になって、ほんとうによかった!
現地に滞在する日本人の多くが、そしてなによりも多くのカンボジアの人たちが、篠原さんの大使就任を喜んでいると思います。
こんなふうにして大使に就任する人って、稀有なんじゃないのかなあ。
稀有な事例にしてはいけないと思うんですけどね、外務省さん。


いろいろあるけど、篠原さんの大使就任という人事については「ナイス人事!」です。
名誉職人事ばかりじゃなくて、「ナイス人事!」が多くなれば、そのうち「ナイス外務省!」といえる日が来るかもしれません。(無理か……)