山口県母子殺害事件の差し戻し控訴審――弁護側が傷害致死を主張


いまフジテレビの木曜22時に「わたしたちの教科書」というドラマが放映されています。中学生の娘をいじめ自殺で失った女性弁護士・珠子が、苦労しながら証拠を集め、いじめはなかったとする学校側と法廷で闘う、というのが話の概略です。


珠子が調査を進めるうちに、副校長はいじめの存在を知っていたことがあきらかになります。しかし、副校長は別の弁護士・直之(珠子の元恋人)を雇い、学校にはいじめがなかったことを法廷で証明する準備を進める。その過程で、いじめがあったことを知っている副校長に対して、直之がした質問がたいへん印象的でした。その質問とは、いじめがなかったことを証明するためには、本当のことを知っておく必要がある、というものです。


まだドラマのなかで、副校長が直之に対して「ほんとうはいじめがあった」といっているわけではありません。が、おそらくそういう流れになるであろうことは予想がつきます。ちょうど、このドラマを見る直前に、テレ朝の「ニュースステーション」を見ました。山口県母子殺害事件の差し戻し控訴審がトップニュースで、弁護側が取って付けたような理由を元に、被告の量刑が死刑ではなく傷害致死が適当であると主張したことが報道されていました。


たとえば、同事件の弁護人が、「わたしたちの教科書」のごとく、「死刑が妥当でないことを証明するためには、ほんとうのことを知っておく必要がある」と被告に問いかける。そして、被告が弁護人に事件の「ほんとうのこと」を話し、それがあきらかに死刑に相当する犯罪であったことを知ったうえで、弁護人が傷害致死が妥当といっている……。それも、死刑から傷害致死への減刑を求める弁護人のほんとうの狙いが、被告の弁護よりも「死刑廃止」の一般へのアピールにある(とニュースのコメンテーターの加藤さんはいってました)のだとすれば、被告の弁護人らの振る舞いには疑問を持たずにいられません。


こんな、ちゃんちゃらおかしい弁護をしている21人の大弁護団に対して、ニュース映像のなかの本村さんが冷静に批判している姿が、凛々しくもあり、もの悲しくもありました。妻と子を殺した被告を裁く法廷を、弁護人による「死刑廃止」のアピールにされてしまっては、本村さんの憤りの行き場がなくなってしまうでしょう。この部分では、私も情緒的にならざるをえません。だからといって、被告が死刑になればいいと私が思っているわけでもありません。この部分が、簡単に二者択一で答えを出せる問題ではないことは、以前のエントリーで書きました。


情緒的な思いを取り払い、冷静になって被告の罪状が何かを考えてみましょう。それでも、すでに報道などで公表されている範囲で事件の経緯を見るかぎり、法に素人の私の目から見ても、被告の罪状は殺人であると考えざるをえません。にもかかわらず、弁護人が「死刑廃止」アピールのために被告の傷害致死罪の適用を求めるのは、著しく正当性に欠けていると思うのですが……。ちなみに、古館伊知郎さんも番組で、被告に妥当な罪状は傷害致死ではなく殺人だ、とコメントしていました。


弁護人って、被告の「ため」に、法廷で被告の弁護をするものだと思っていました。まあ、弁護の功績をあげたいという意味では、当然、自分の「ため」にという部分もあろうかと思いますが。いろいろな形式があっていいかと思います。だがしかし、本村さんの事件に関していえば、「死刑廃止」のために被告を弁護するという弁護団のスタンスは、感心できませんね。被告の話を直接聞いたわけではありませんが、「わたしたちの教科書」の直之と副校長のような関係性を、弁護団と被告が築いていないければいいのだが……、といまはただただ思うのみです。


参考までに、ウェブ上にアップされていた関連ニュースを、以下に貼り付けておきます。


光市母子殺害、差し戻し審で初公判


 最高裁無期懲役の判決を破棄した山口県光市の母子殺害事件。差し戻し控訴審の1回目の公判が開かれました。死刑を避けるための十分な理由があるのかどうか、これが争点です。
 967人が傍聴券を求めた注目の公判。本村洋さん(31)は遺影を手に広島高裁に入りました。死刑を求め続けてきた8年間。

 「自らの性欲のために2人を殺害する行為は、万死に値すると思っていました」(02年、遺族の本村 洋 さん)

 本村さんの妻と長女は99年、山口県光市で、排水検査を装って自宅に上がり込んだ当時18歳の少年に殺害されました。検察は、元少年に死刑を求刑しましたが、一審・二審の判決は、更生の可能性があるとして無期懲役を言い渡しました。しかし、去年、最高裁が「犯行時に18歳だったことが死刑回避の決定的な事情とは言えない」として、無期懲役の判決を破棄、審理を高裁に差し戻しました。

 元少年が乗っているのでしょうか、広島拘置所から車が出てきました。裁判所の方向へ向かいます。26歳になった元少年。うつむき加減で入廷し、冒頭、自分の名前を小さな声で答えると、後ずさりして被告席に着席しました。

 「表情や態度は、事件当初とあまり変わっていない」(遺族の本村 洋 さん)

 検察側は、犯罪事実については既に最高裁も認定しており、国民の法感情を考慮すると極刑をもって臨むしかないと主張しました。

 一方、弁護側は、事実関係を争わなかった前の控訴審から一転、新たに組織された21人の弁護団が、「この事件は元少年が自殺した母親恋しさに、本村さんの妻に抱きついた結果、偶発的に起きたもので、殺意や暴行目的はなかった」と主張。傷害致死罪が相当だとして死刑の回避を求めました。

 「検察官、あるいは裁判所が認定するような計画性のある、あるいは凶悪性の強い事件ではない」(弁護団

 元少年は、退廷する際に傍聴席に向かって一礼しましたが、遺影を胸に抱いた本村さんと目を合わせることはありませんでした。

 「今回、弁護団が多数ついたことで、少年自身が自分の罪を見つめる機会を得たのか、その機会をそこなったのか、どっちに転ぶか分かりませんけども、真実を語ってもらいたい。そして妻と娘に心の底から謝罪し、自分の行為を悔い改めてほしい」(遺族の本村 洋 さん)

((5月24日 17:58、TBS News i)

参考 … 藤井誠二のブログ http://ameblo.jp/fujii-seiji/entry-10034695526.html