会社の話 12

 出版社と取次との関係において、いったいどんな利権があるのか。こんなことを書いていると、出版界の諸先輩に喝を入れられそうだが、ほぼ素人による戯れ言だと思って、ご勘弁ねがいたい。
 出版社が取次と正式契約をする際に、もっとも重要な契約事項は、前者が後者にどれだけの掛け率で本を卸すかということ、すなわち「正味」の問題である。私が知る狭い範囲のなかでは、本体価格の60〜70%が、出版社から取次に卸す正味のようだ。ようするに、本が売れると出版社は、本体価格1000円の本の場合、600〜700円が売上として取次から支払われる。
 「けっこう儲かるじゃん」と思われるかもしれないが、この売上から製造コストや広告費、人件費などの諸経費を差し引いたものが純利益となる。みなさん、純利益は、たいてい本体価格の20〜30%くらいに設定しているのかなあ。本体価格1000円の本が1万冊完売となって、利益は200万〜300万円といった程度。このたとえは、ちょっと現実離れしているかもしれないが、あくまでわかりやすい事例ということで……。
 ここでよく考えてみよう。いまの事例にもとづいて本を出すと、利益が200〜300万円と書いた。いまの事例の本を年間10冊ほど刊行したとする。そうなると、利益は2000〜3000万円になる。ここで正味が関係してくる。正味が10%違うと、いまの事例でいえば、利益が1000万円も違ってくることになるのだ。この1000万円の違いは、大きいですよ、やはり。
 この正味がどのような基準で決まるのかは、ぜひぜひ取次関係の方に教えてもらいたい。なぜかといえば、私にはその大きな基準が、創業が古い出版社は正味が高く、創業が新しい出版社は正味が低い、というふうに思えてならないからだ。
 もう一点は、卸す条件であろう。基本的には、以下の条件がある。読者や書店の要望により出荷する「注文」。新刊を出す場合に数ヶ月の委託を条件に出荷する「新刊委託」。代表的な本をセットにして書店に寄託し、売れたら補充していく「常備寄託」。まとまった冊数の注文があった場合、精算を数ヶ月先に延ばす「延勘」。ほかにも条件はあるが、ほとんどの本は以上のいずれかの条件で出版社から出荷される。
 「注文」については、基本的には買い切りが条件なのだが、実質上は返品が可能となっている場合が多い。老舗出版社だと、いまでも「注文」された本が買い切りになることもあるらしいが、それは稀な例だと思う。書店にいって、高くて古い本が、いつまでも同じところに置いてあったら、それは買い切り条件の「注文」本なのかもしれない。書店としては、買ってしまったので返品できず、売れるまで置いておくことになるわけだ。読者が注文して、書店が出版社に発注したあと、注文がキャンセルになったりすると、そういう事態になったりする。もちろん、本好きの書店人が「この棚には、この本が必要だ」という信念のもとに、老舗出版社の高くて古い本が置いてある可能性もありうるのだが……。
 いずれにせよ、本を出版社から取次へ卸す条件についても、正味と同様に、古い出版社がなにかと有利なシステムになっており、ある種の利権になっているように私には思えた。
 次回は、正味や卸す条件に関する利権について、新しい出版社が取次に口座を開くという事例を元に考えてみよう。