韓東賢さんの本

 韓さん(東大大学院)のチマ・チョゴリをとおした在日朝鮮人エスニック・アイデンティティに関する論文を、一般向けに加筆・修正して、年内に刊行します。
 姜尚中さんらの活躍により、「在日」への認知度や理解度は、ひと昔まえよりも高まったといえましょう。それでも、日本で暮らしている人なら(とりわけ日本「人」なら)、もっと在日の方がたに関して知ったほうがよいと私は考えています。
 本書のテーマは、歴史認識などといった堅苦しいものではなく、チマ・チョゴリという比較的身近なものから在日を考察するものです。なぜ在日が日本にいるのかとか、なぜ総連と民団があるのか、といった歴史を知るのは重要なことですが、一方で在日の歴史が在日の当事者を含めて風化しつつあるのが現状です。
 だからこそ、身近なテーマから在日にアプローチする必要が高まってるのだと思います。この本を読めば、朝鮮半島に対する風当たりが強くなるたびに「チマ・チョゴリが切られる」、といった馬鹿げた事件が減少するかもしれません。
 かりに在日を敵だと思っている人がいるのならば、いい加減な情報で噴きあがる前に、まずは敵である在日のことをよく知ることからはじめてはいかがでしょうか。きっと、チマ・チョゴリを切ることが、いかにチャンチャラオカシイことかということに、気づくことでしょう。
 とはいえ、知る努力を怠ったり、わざと知らせないような力が、いまだに働いているのも事実で、だからチマ・チョゴリが切られつづけているのだともいえます。人間って、敵を欲しがる生き物ですし、敵を攻撃しているときには安心できますからね。そうなると、敵をズラす戦略が必要になるのかもしれません。
 だがしかし、敵をズラすということは、単に敵の対象を変えることであり、けっきょくは敵が存在しつづけることになります。敵の再生産ですね。はっきりいって、いないと安心できない敵なるものを消滅させるということは、おそらく無理でしょう。ならば、どうしたらいいのだろう……。なさけないことですが、私の思考はこのへんで止まってしまいます。
 興味深い問題なので、こんど著者のみなさんに聞いてみましょう。