おすすめドキュメンタリー

 「この人のつくるドキュメンタリーに、はずれはない」と思っているディレクターが、ふたりいます。ひとりは、ドキュメンタリージャパンの五十嵐久美子さん。98年に放映されたNHKスペシャル「なぜ隣人を殺したか・ルワンダ虐殺と煽動ラジオ放送」をつくった方です。もうひとりは、フリーの玄真行さん。ともに、カンボジアで番組づくりのお手伝いをしました。おふたりとも、映画もつくっているから、監督でもあります。
 このたび、玄さんがつくった映画が公開されるのを記念して、玄さんのドキュメンタリー作品2本も、シネマアートン下北沢で公開されることになったそうです。テレビ放送のドキュメンタリーは、たいてい一過性で、見逃したらお終いだというケースが多いと思います。この機会に、ぜひ観にいってください。
 で、玄さんの作品以外にもう1本、すばらしいドキュメンタリーが公開されます。観た方も多いと思いますが、中国の麦を刈る民を取材した佐野岳士さんの作品「麦客」です。佐野さんとは面識がありませんが、やはり「はずれのない」ディレクターのひとりだと思います。
 玄さんとは、TBSで放送していた「神々の詩」という番組をつくりました。トンレサップという湖で暮らす人びと(カンボジア人、チャム人、ベトナム人が共存している)を、雨季と乾期とに分けて取材しました。空撮のために空軍のヘリを借りて、撮影してヘリから降りると、料金が見積の倍になっていたり。夜明け前におこなわれる漁の取材をしようと思ったら、舟がマングローブに引っかかり、抜け出したときには夜が明けていたりとか。取材対象者に確定していた人が、いきなり行方不明になってしまうとか。いろんなことがありました。
 「はずれのない」ドキュメンタリー3本と映画1本。下北沢へ足を伸ばす価値はあります。

「シャウト オブ アジア<ニューバージョン>」上映記念企画
ドキュメンタリーの力
上映日程: 12月10日〜23日 20:30〜
場   所: シネマアートン下北沢 (でんわ 03-5452-1400)

A. 「無頼の遺言――棋士藤沢秀行と妻モト――」
 これは、NHKにんげんドキュメント」で放映された「かあちゃんは好敵手」のロングバージョンです。

B. 「そして僕は日本で生まれ育った――在日コリアン・家族の100年――」
 これは、NHKハイビジョンとBSで放映されたもので、在日である玄さんのルーツを探る旅を追ったロードムービーです。気合いが入っています。

C. 「麦客――中国・激突する鉄と鎌――」
 これは、NHKスペシャルで放映されたものです。現代中国の実像を、見事に描き出した作品だと思います。

上映予定などの詳細は、こちら→ http://www.cinekita.co.jp/schedule.html#documentary

こう見てみると、最近は日本放火協会(NHK)などといわれているNHKの番組も、けっして捨てたものじゃない、とつくづく思います。ていうか、上質のドキュメンタリーを制作できる土壌は、いまやNHKにしかないといっても過言ではありません。それだけに、続発する不祥事と幹部連中の稚拙な対応が、残念で仕方ありません。
玄さんの映画「シャウト オブ アジア」の情報も、上記webページで得られます。出演するアジアのミュージシャンのなかに、忌野清志郎さんが含まれていたりして、いい感じです。