海外のこと――「クーリエ・ジャポン」創刊――

講談社から創刊された「クーリエ・ジャポン」12月1日号を買いました。「海外1000メディアから発信されるニュースを厳選」と謳っています。たしかに、日本のメディアではあり得ないような切り口で、世界のさまざまな出来事を記事にしていました。
「世界が見たKOIZUMI」とか「『9.11』あの時、世界は何を伝えたか?」「国境を越えた村上春樹の世界」など、おもしろい記事が並んでいましたが、私の興味をひいたのは「女がすべてを決める島」という記事でした。アフリカ西部のギニアビザウにあるビジャゴス諸島では、伝統的に「女が夫を選び、気に入らなければ離婚する」とのこと。さらに「恋愛から政治まで女が全権力を握り、男はそのことに文句を言わない」。母権制のすばらしい社会じゃありませんか。
カンボジアの農村をまわっていると、家庭内では母権制なのに、世間では父権制のようになっていました。そういう社会で何が起こるかというと、世間的には男に権力があるように見えるが、実際に家庭内では権力があるように見える男を女が牛耳る、ということになります。
政治家もそうだし、農村の長もそうです。そうなると何が起こるのか。世間と家庭での権力ギャップに悩む男が家にいつかなくなり、カフェやビリヤード場がやたらと儲かることになります。そんな状況を10年ちかく見ていて感じたことは、「この社会の男は、いっそのこと、女にすべての権力を委譲してしまったら、どんなに楽な気分で暮らしていけるのか」ということでした。同時に、そういう社会は、まんざらでもないのではないか、とも思ったりもしました。

さて、「クーリエ・ジャポン」。日本の人たちが、国際問題にあまり興味がないことは、すでに常識だといってもいいことでしょう。日本の新聞において、国際ニュースの占める割合が、やたらと低いことは、日本の外で暮らせばよくわかることだと思います。私自身は、海外に長く住んでいた経験から、日本の人が日本のことだけ知っていればいいなどと開き直ることには抵抗を感じます。そして、海外の問題に詳しい書き手に知り合いは多いし、そういう書き手の本をどんどん出したいという意志はあります。
とはいえ、よほどタイムリーなネタでないかぎり、海外の問題をあつかった本を出しても、おそらく採算がとれません。双風舎の現状で、採算のとれない本を出したら、即、営業停止に直結してしまいます。(笑)
これは夢物語ですが、売れる本が出て、多少のリスクを背負えるようになったら、ぜひ海外の問題をあつかった本を出してみたい。すこしだけ海外にも目を向けてもらえるような、土壌をつくりたい。そう考えています。そういう意味では、アジアの本に特化したうえで経営を成り立たせている「めこん」という出版社は、尊敬に値します。ほかにも、海外関連のネタに特化した出版社があるのかもしれませんね。いずれにしても、「零細出版社は、専門領域に特化したほうがいい」という定石があるとはいえ、この日本で、海外ネタのみで勝負して採算をとるということは、マジックのようなことでありましょう。
話を戻します。以上のような状況のなかで、いま、あえて、海外メディアのニュースを中心に据えた雑誌を創刊するという点で、「クーリエ・ジャポン」には拍手を送りたいところです。しかしながら、国際問題興味なしの日本市場には、棘の道がつづいていることでしょう。あえて創刊する勇気に答えるかたちで読者が反応し、売れ行き不振で廃刊なんてことにならないことを、祈っております。