健康本の誇大広告と新聞

「なぜ、いまごろ……」と思いました。
毎朝読などの大新聞を読んでいる人なら、朝刊1面の下部に掲載されている健康本の広告を、しばしば見かけたことがあるでしょう。なかには、見るからに胡散臭い健康本もあるのに、なぜか繰り返し掲載されていました。それも大新聞に……。

前に勤めていたK社では、それらの新聞に新聞広告を出すこともありました。新聞の書籍広告は、あいだに代理店が入ることが多く、●●広告社は読売の広告に強いとか、■■広報社は朝日の広告に強い、というような分業体制になっているようでした。「強い」とは、ようするに「ほかより安い」という意味です。
代理店の人たちは、広告掲載の機会をさぐりに、かなりの頻度でK社をおとずれ、業界ネタを教えてくれたりしました。で、いざ広告を出すとなると、当然ながら掲載日と料金の相談をするわけですが、それにくわえて、もうひとつ相談することがありました。
新聞朝刊1面の書籍広告は、たいてい8社分が掲載されます。そして、「掲載日の8本のうちの何本が健康本の広告なのか」ということが議論になるわけです。出版社としては、胡散臭い健康本と一緒に自社の広告が掲載されると、自社の広告まで胡散臭いイメージを読者に持たれてしまう、ということを懸念するのです。
巨額な広告宣伝費を準備して、質より量で勝負する健康本の出版社は、人文書の出版社のように広告代を値切ったり、広告代が安くないと掲載しない、といったことがないようでした。つまり、高い広告代を払ってくれて、かつ何度も同じ広告を出してくれる健康本の出版社は、新聞社にとっては大のお得意さんだといえます。
しかしながら、ときには「ほんとかよ!?」と思うような内容の健康本の広告も多くありました。そんな広告を見かけるたびに、「新聞広告は、高い広告代を払っていれば、何でもありなのかなあ……」と思っていました。でも、「週刊文春」や「週刊新潮」などがセンセーショナルなネタを広告のリードに使うと、平気で削除したりしていて、一貫性がないなあとも思ってました。
双風舎は新聞広告など出していませんから現状はわかりませんが、私がK社に在籍した2〜3年前でさえ、健康本と新聞広告の関係は、上記のようなものでした。
で、ようやく警視庁が「新聞広告を掲載していた朝日新聞など全国の新聞社40社と日本新聞協会、新聞広告審査協会に対して、広告の厳正審査を求める要請書を郵送した」そうです。

新聞広告の厳正審査要請 アガリクス薬事法違反事件で
 がん患者の体験談と称した「バイブル本」で、アガリクスメシマコブの加工商品を広告していた薬事法違反事件で、警視庁は7日、この書籍の新聞広告を掲載していた朝日新聞など全国の新聞社40社と日本新聞協会、新聞広告審査協会に、広告の厳正審査を求める要請書を郵送した。
 東京地検は同日、本を出版していた「史輝(しき)出版」の役員ら4人を同法違反の罪で起訴した。一連の事件で起訴されたのは計6人になった。
 警視庁の調べに、役員らは「新聞に広告を載せると反響が大きく、商品の売り上げが伸びた」などと供述。史輝出版などは、書籍4冊の宣伝のため、01年以降の約3年で約6億円を新聞広告費にあてて、約40億円を売り上げていたという。

いまごろになって、それも警視庁から「広告の厳正審査」を求められるなんて、おかしな話だと思います。みずからが朝刊1面に掲載している広告が胡散臭かったら、2001年からの約3年間のあいだに、みずからの取材力で調査して、掲載拒否にするなり警察に訴えるなり、しておけばよかったでしょう。
上記の記事は、読み方によっては「史輝出版は、約6億円もの広告費を払っているんだから、そう簡単には掲載拒否にはできなかったんだ」と言い訳をしているようにも読めます。全国の新聞社40社が、胡散臭い健康本の実態を見抜けなかった、または胡散臭さを知っていて広告を掲載していたというのなら、それらの新聞自体が信用できないのはもちろん、それらの新聞に掲載された広告も信用できなくなってきてしまいます。
この一件で、各新聞は広告の掲載に、ちょっとは慎重になるのでしょうか。それとも、やはりカネをたくさん払ってくれる出版社の広告は、胡散臭くても掲載しつづけるのでしょうか。

最後に、このブログをアップする時点で、アガリクス薬事法違反事件の関連で、警視庁が新聞社などに新聞広告の厳正審査を要請した記事をネットに掲載しているのは、朝毎読のうち朝日新聞のみという体たらくであることをお知らせしておきます。
広告代理店の方で、この腐った実情を解説していただける方は、いらっしゃいませんか?