ワーキング・プア2、見ました

lelele2006-12-11



「効率的な市場主義」とか「景気回復が重要」とかいってたどっかの大学の大先生に「喝!」。
大先生の発言を耳にした私は、松田優作ではありませんが、「なんだこりゃー!」とテレビの前でつぶやいてしまいました(古くてわかりませんね、このギャグは)。

前回の放送時には、ごく私的な経験を元に、ワーキング・プアな親を持つ子どもの実態を自分なりに書いてみました。

ワーキング・プアな親を持つ子ども 1
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20060726/1153850795
ワーキング・プアな親を持つ子ども 2
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20060727/1153928865
「ワーキング・プアな親を持つ子ども」再考
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20060729/1154149970

以下、昨日の番組についての感想を、大先生のご意見に抗いつつ、簡単に書いてみようと思います。


ある放送局、A社があります。A社には、バブル期につくった子会社がいくつもあります。
子会社のひとつであるB社には、プロパーの社員がわずかであり、社員のほとんどがA社からの出向者です。B社はカメラや音声など技術部門を中心に、A社の仕事を請け負っています。


A社は、自社にプロデューサーやディレクター、カメラマンなどのスタッフが在籍していますから、自社の番組は自社のスタッフで制作しています。しかし、バブル期に、無茶にチャンネルを増やしたため、番組の枠が多すぎて、ずいぶん前から自社のスタッフだけでは番組がつくれません。だから、A社はB社に技術部門の多くの仕事を依頼せざるを得ない状況になっています。


とはいえ、B社にいる多くの人はA社からの出向者ですから、結局のところA社が雇ったスタッフとわずかなB社のプロパー社員が、A社の番組をつくっていることになります。ここでポイントとなるのは、A社からの出向者もB社のプロパーも、まったく同じ仕事をしている、ということです。


同じ仕事をしているのに、給料はまったく異なります。まず、A社のスタッフの基本給は、同期入社のB社のスタッフの1.5倍から2倍です。B社に出向するA社のスタッフには、さらに出向手当なるものが付加されます。そうなると、同じ会社のなかで、まったく同じ仕事をしているスタッフの給料格差が、2倍から2.5倍くらいになるわけです。


この格差を「A社の試験に受からなかったB社の人が悪い」といって片付けてしまうのは問題だと思いますが、ここでは100歩ゆずって、それもアリとしましょう。このようなふざけた給与体系の元でB社のプロパーが、どんな思いでA社の仕事をしているのかということも、容易に想像できると思いますが、ここでは触れません。


ただし、出向スタッフについては、簡単に触れておきます。A社がB社にスタッフを出向させる理由のひとつは、こういうことです。つまり、古めかしい年功序列&終身雇用システムによって、澱のようにたまっていく使えないスタッフ(老いも若きも)をそのままにして新入社員を入れると、A社の「社員数」がどんどん増えてしまう。それでは公的な「見ばえ」が悪い。そこで、一時的な口減らし対策として、A社のスタッフをB社に出向させ、A社にいられないことの「我慢料」として出向手当を払い、一定の時期を過ぎるとA社に呼び戻すわけです。


さて、A社には独自の年金があるそうです。これまでだと、A社のスタッフが退職すると、一定の年金が毎月もらえていました。ここでは年金額を月15万円としておきましょう。ところが、国民年金と同様にA社の年金も破綻気味であることから、今後は年金額をいままでの半額にするという方針が打ち出されました。そうなると、当然ながらこれから辞める人たちが、「なんで、いきなり半額なんだー」とギャーギャー騒ぐことが予想されます。


騒がれないために、さらにA社はこのような提案をしました。それは、「年金額は半分になるけれど、A社を退職後も働きたい人は、65歳までB社で働いていいよ」というものでした。こうした措置によって、B社にはふたつの大きなデメリットが生じます。第一に、B社は現場仕事が中心なので、現役を引退したおっさんがぞろぞろやってきても、はっきりいって役に立ちません。第二に、上層部の勝手な決定により、B社のプロパーが汗水流して稼いだお金を、A社が年金を払えなくなったという理由で、職務上は役に立たない人たちへ「年金がわり」に提供するのは、B社プロパーの労働意欲を著しく低下させます。


A社のスタッフの生涯賃金は、B社のスタッフの2倍くらいなわけですよ。何度も書きますが、A社とB社の同一業務をしているスタッフは、会社が違ってもまったく同じ内容の仕事をしているのに。それでもって、A社の年金の後始末まで押しつけられてしまうB社のスタッフには、A社のスタッフのような「年金がわり」のシステムはありません。まさに「これって、どうよ?」の世界ですね。よほどの放蕩生活を送らぬかぎり、退職したA社のスタッフがワーキング・プアなぞになるわけがない。一方、B社のスタッフは終身ワーキング・プア……。


このようなことを長々と書いたのは、「効率的な市場主義」を目指すとかいう問題の、もっと手前に、一流と呼ばれている企業内で、外から見れば誰もがアホらしいと思えるような、ワーキング・プアの再生産がおこなわれていることを指摘したかったからです。一流と呼ばれる企業が、その場しのぎの経営方針を打ち出すことにより、みずからワーキング・プアを再生産しようとしている実状と、番組で取り上げられていた人たちの実状とは、けっして遠くはない共通点があるような気がしました。


番組で「効率的な市場主義」と「景気回復」を提唱する大先生も、高齢者の生活維持とかセーフティネットといったことを免罪符的にいっておりました。しかし、いくら景気が回復したとしても、企業の利益がけっしてスタッフには還元されず、A社のような腐ったシステムにより、一流企業が率先してワーキング・プアを生み出しているようでは、何の解決にもならないなあ、とつくづく感じました。逆に、大先生以外のふたりのコメンテーターの発言には、うなずける部分が多かったです。


最後にお断りしておきますが、A社とB社の話は、あくまでも現実の話を元にしたフィクションです。あしからず。
この原稿を書いているときに、なぜか弊社の寅専務が、じっと手を見ておりました(写真参照)。