「善意」という名の会社による不正


いまや人材派遣会社として有名なグッドウィルという会社。
バブル期にディスコ「ジュリアナ」を経営していた人がやっているといったことや、社名に「善意」を名乗る傲慢さといったことは、この際、どうでもいい。問題は「コムスン」です。


グッドウィル系列の訪問介護業「コムスン」が、介護保険料を不正請求していた問題が、日々報道されていますね。報道された内容のなかで、不思議に感じることがありました。それは、厚生労働省から強力な行政処分をくらったコムスンの全事業を、グッドウィルが子会社の日本シルバーサービスとやらに「譲渡」することにより、行政処分をくらったコムスンの全事業がそのまま継続されることです。


ということは、親会社はグッドウィルで変わらず、したがって不正を容認(推進?)していた経営陣も変わらず、末端で働く人びとも変わらないんですよね。各地の自治体から行政処分をくらう前に、事業所を廃止してしまうというようなことも、平気でやっているんですよね。


市場は正直だから、こういう胡散臭い会社の株は、すぐに暴落しました。一方、毎月、私から無条件に4000円もの介護保険料を自治体に徴収させ、そのお金から要介護者の負担すべき介護料の一部を捻出し、その捻出したお金が業者に不正請求されていたことをなかなか気づかなかった厚生労働省。同省の課長は一昨日、コムスンの全事業がグッドウィルの子会社に「譲渡」されることに関し、こんなのんきなことを読売新聞にいっています。

厚労省老健局の古都賢一・振興課長は「ホームページを見て初めて知った。役員が交代するなどすれば、5年を待たずに指定申請することはできる」との考えを示した。ただ「利用者を守るためなのか処分逃れのためなのか不明で、事情をよく聞く必要がある。改めて指定申請しても、親会社は同じなので、審査は当然、厳しくなる」と話している。
(読売新聞、2007年6月7日、朝刊1面)

この話で気になるのは2点です。認知度の高い企業が不正をおこない、そのことがメディアでさんざん報道されています。にもかかわらず、平然と事業の「譲渡」で現状を切り抜けようとするコムスングッドウィルの厚顔が信じられないのが第一。第二は、もちろん制度の壁があるのでしょうけど、みずからの行政処分コムスングッドウィルの「譲渡」戦略によって骨抜きにされそうだというのに、新規事業を認可する「審査は当然、厳しくなる」としかいえない厚労省の情けない体質。


こんなことをやっていたら、不正がバレた事業体は、名誉を守るために行政処分が実行されるまえに廃業し、まったく同じ事業内容と人の構成で、別会社として再出発すればいいということが慣例化しちゃうんじゃないのかなあ(すでに慣例化しているのかもしれませんね)。さらにいえば、我が血と汗の結晶である介護保険料の4000円のいくばくかが、そんな会社に対して今後も支払われるのは、まっぴらごめんですね。だからといって、介護保険料の請求は国民健康保険料と一括で来ます。ようするに、前者の支払いだけ拒否るというのは、むずかしい仕組みになっているんです。不正やら不払いやらを続発させておきながら、年金も介護保険料も、「取れるところから取る」みたいな仕組みになっているのが、なんとも姑息な感じがします。


たしかに、コムスンが事業から撤退したら、数万人規模で存在する介護対象者には影響があるでしょうし、末端で雇われて働いている人たちの生活の問題もあります。しかし、そうした影響や問題と不正請求の問題は話が別で、それがあるから不正をちゃらにしていいですよということにはなりません。まあ、グッドウィルはそういう論法を使ってくるでしょうし、政府高官や政治家、そして厚労官僚の誰かが、グッドウィルと癒着してるんじゃないのかと思われてもおかしくない厚労省の及び腰も変わらないんでしょうけど。


とりあえず今回の介護保険不正請求問題で、「善意=グッドウィル」などという社名(限りなく宗教団体に近いネーミング)をつける会社の実態が、どういうものなのかがの世間に知れ渡ったのは、悪いことではないと思います。


ちなみに、東京都の管轄地域内だけでも、コムスンだけでなく「ニチイ学館」「ジャパンケアサービス」も不正請求をやっていたと報じられています(毎日新聞 2007年5月29日)。もし不正に請求した「あがり」の一部が、不正を見逃す側の許認可権者に還元されていたら、その昔、室伏哲郎さんが造語した「構造汚職」に該当するような大きな事件に発展する可能性もある、と思ったりします。


陰謀説とかではなく、フツーに考えてみても、おかしなことだと思うんですけどね、この問題は。
山のようなおこなわれている(いた)不正請求の量や金額からいっても。行政処分をかわそうとするグッドウィルの姿勢にしても。それが発覚してからの厚労省の対応からいっても。
さて、その実態は如何?