会社の話 その1

 対談の感想は、内容をテープ起こししながら書くことにしよう。
 それより、今日は業者さんへの支払日。どこに、いくら、何の代金を支払うのか、計算しなければならない。
 出版社の経費は、本の製作費(組版、装丁、用紙、印刷、製本など)がもっとも多く、運賃や広告費、営業代行費、倉庫代、通信費、交際費、雑費などがこれにつづく。問題は、これらの経費を支払うために、書店や取次への請求業務をやらなければならないことだ。本を売った得意先に代金を支払ってもらわなければ、自分が支払うお金がないのは当たり前の話である。とはいえ、これがなかなか「当たり前」ではない。このへんを契機にして、ひとり出版社の実情を書いていこうと思う。

 ひとりで出版社をやるということは、編集のみならず、経理も総務も営業もひとりでやるということが前提となる。この前提にかなり無理があるということが、会社をはじめてしばらくたったころに理解できた。
 企画・編集については、なにがあろうと自分でやる。というか、他人がたてた企画の本をつくるのならば、別にひとりで出版社をやる必要はない。編集者になる理由は、「編集作業が好き」とか「編集という職業に憧れている」、「編集で生計を立てたい」、「安定した仕事として編集を選んだ」、「本が好き」、「業界で働きたい」など、さまざまであろう。しかしながら、会社という組織に入ってしまい、給料をもらうようになったら、給料相応の働きをする義務が会社に対して発生する。すなわち「あなたは売れる本を年に何冊つくりなさい」というようなノルマが生じる。たとえ自分の企画でなくても、本をつくらなければならなくなる。まあ、当たり前の話ですね。
 私の場合は、それが当たり前ではない。本は好きだけど、編集という仕事には何の憧れもない。編集作業がとりわけ好きでもない。業界なんてどうでもいい。こんなことをいっていると、「じゃあ、なんで君は編集者をやっているのかね」と問い質されることでしょう。
 この問いに、あえてこう答えておきましょう。自己満足のためにやっています、と。実際にそうだし、こういう前提にしておかないと、恥ずかしくて自己満足に付随する目的を語れなくなってしまう。けっこう気が弱いのです。でも、ここで「世の中のためになる本を出したい」とか「弱者の視点に立つことの重要性を……」とかいいだしたら、ゲームオーバーでしょう。人のために何かをすることは、結局、自分のために何かをすることなんだから。
 では自己満足に付随する目的は何か。これがけっこう重要なのだが、短時間では書けないので、今回はやめておこう。
 以下、なぜ編集者になったのか、ひとり出版社設立の経緯、ひとり出版社の苦悩と喜びなどを、ぼちぼち書いてみよう。
 乞うご期待、といいたいところだが、あまり期待しないでください。