会社の話 20


 「会社の話 19」で、編集作業がはじまると「時間がない」と書いた。にもかかわらず、私は連日、長文のブログを書いている。なぜ忙しいのに、ブログを書けるのか?
 時間は突然、やってくるからだ。
 著者にわたした(送った)原稿を、いかに早く戻してもらうのかが、編集者の手腕の見せどころだと記した。とはいえ、いくら著者からの原稿の戻りが遅れることを予想して作業計画を立ても、なおかつ遅れることがしばしばある。「まさか、ここまで遅れることはないであろう」などと思っていても、ここまで遅れることがある。
 仕方のないことだ。計画を立てているのは私であって、著者ではない。もちろん著者の事情をかんがみつつ、計画を立てるのだとはいえ、それはあくまでも私の論理である。著者には著者の事情がある。
 八方に手をつくして、連日連夜の催促をつづけ、それでも原稿が戻ってこないと、「このペースだと、数ヶ月後に資金ショートするかもしれんなあ」という不安と、「こんな計画を立てた自分がいけないんだ。著者に申し訳ない」という自己反省と、「刊行が遅れても、死ぬことはないだろう」という開き直りが入り交じった気持ちになる。
 臨界を超えたような気分、とでもいおうか。こうなると、予想外の時間の隙間ができる。時間が突然やってくるわけだ。『限界の思考』の場合、初版部数を確定するために、かなり早くから営業をやっていた。おかげさまで事前注文は4300〜4500部、よって初版部数は5000部の線で固まりつつある。装丁などのデザインも、すでに固まっている。その他にも、1冊単位の発送や会計などの実務はあるが、そういう仕事はすぐに飽きる。
 こうして仕事とは関係のない時間がやってくる。自宅で仕事をしているのだから、暇をつぶすおもちゃは何でもそろっている。ギターを弾いたり、テレビやビデオを観たり、雑誌を読んだり、音楽を聴いたり、ブログを書いたりする。
 というわけで、不安と反省と開き直りが混ざった気分になりつつ、サンボマスターの曲を弾いて、「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」を観て、このブログを書いている。
 自宅でひとり出版社をやる場合、ある程度の禁欲が必要となる。あまりにもおもちゃが手に取りやすいところにあるので、趣味に走って、仕事がすすまなくなるからである。
 でも、こういうときは、仕方がない。おもちゃで遊びながら、「はやく原稿、こないかなあ」と夢想する日々はつづく……。