人生の教科書

 藤原和博さんと宮台真司さんが編集した『人生の教科書 [よのなかのルール]』が文庫になりましたね。
 「宮台真司って、何か軽い感じで嫌だ」とか「援交だテレクラだといっている学者なんて……」という声を、先日も聞きました。宮台さんについて、そういう評価をしたり、思ったりしている人は、けっして少なくないような気がします。
 そういう人は、おそらく宮台さんの本など読んでいないか、読んでも咀嚼できていないのだと思います。つまり、誤解や誤読にもとづいて、軽がると宮台批判を展開しているように、私には見えます。
 まず、そんな人たちに、この本を読んでもらいたいものです。なぜ宮台さんが発言し続け、書き続けているのかが、すこしわかるかもしれません。

 つぎに、研究室ではふんぞりかえり、学生に「指導」などしているものの、ろくに論文も書かず、みずからの研究成果を社会に還元していない大学の学者さんたちに、この本を読んでもらいたい。宮台さんと同じことをしてください、といいたいのではありません。リタイアした建具職人さんが、住宅リフォームのNPOでみずからの技術を活かすことにより、地域社会に貢献するように、長年の研究で学んできた成果を、よのなかのために活かしてほしいのです。
 実務や研究で忙しい人(そんなに多くはない)を除けば、学者さんたちには時間もカネも機会もあるでしょう。「できるのに、やらない」だけなんですよね、おそらく。分野によっては、社会還元しにくい学問もあろうかと思います。それは仕方がない。とはいえ、分野によっては、明日からでも社会還元が可能な学問も多々あるわけです。
 大学で教え、「何かできないかなあ」と思いながらも、みずからの実績に自信がないため、よのなかに貢献することを躊躇している学者も多いことでしょう。たしかに、持論をよのなかに出すとなれば、しっかりと理論武装する必要も生じます。でも、その持論は、よのなかで揉まれ、洗われなければ、数十人しか読まないような大学紀要のなかに埋もれてしまいます。「俺は、それでもいいんだ」なんて悲しいことは、できればいわないでほしいなあ。
 同書を読んで、「自分にも何かできるのかなあ」なんて思う学者さんがあらわれることを、ついつい私は期待してしまいます。微力ながら、そういう学者さんの意志を、ある程度はすくいとれる受け皿のようなものを、私は準備できればと考えています(夢で終わらぬよう、精進しなければ……)。

人生の教科書 よのなかのルール (ちくま文庫)

人生の教科書 よのなかのルール (ちくま文庫)