境界線の現実を知るために――パレスチナ・イスラエル国境――

2005年10月9日に、NHKスペシャル「“約束の地”からの撤退――揺れるユダヤ人国家・イスラエル――」が放送されました。以下、NHKオンラインに掲載されていた番組内容の概要を引用します。

中東和平は前進するのか、世界が注目したイスラエルガザ地区からの撤退。38年に及ぶ占領の終結は、イスラエル社会に深刻な亀裂をもたらした。国家の安全保障、宗教と国家の関係など、建国以来57年間くすぶってきたイスラエルという国家のあり方そのものに関わる問題が顕在化することとなった。
ガザ地区の入植者8500人の退去に抵抗した人々の多くは、いまイスラエルで増え続ける宗教右派と呼ばれる人たちだ。聖書の教えを絶対視し、ガザ地区ユダヤ人が神から約束された土地だと強く信じてきた。和平のための譲歩もやむを得ないとする世俗派の人たちとの溝はより深まり、他の占領地からの撤退となれば流血の事態も危惧されている。
撤退を決断したシャロン首相率いる与党リクードも分裂状態だ。「ガザ撤退でイスラエルの安全は守れなくなった」とネタニヤフ元首相が反旗をひるがえし、次回の党首選への立候補を表明したのだ。
「約束の地」にユダヤ人の「安住の地」を作ろうとしてきたイスラエルパレスチナとの泥沼の紛争という現実を前に、大きな曲がり角を迎えたイスラエルのいまと中東和平の行方を描く。(NHKオンラインより)

この番組は、「こんなことがイスラエルで起こっているのか」ということの一側面を知るための情報として、それなりの意味があったと思います。ただし、説明不足な部分も目立っていました。
番組の大枠は、シャロンによる撤退の決断により、ガザ地区に入植したイスラエル人が、入植地から強制的に退去させられ、それに抵抗する人びとの様子を取材した、というものでした。
説明不足だったのは、イスラエル人とパレスチナ人の関係が、ごくごく簡単にしか触れられていなかった点です。この番組を見た人に予備知識がなければ、「強制退去させられるイスラエル人は、かわいそうだなあ。以上」と理解されてしまうかもしれません。
つまり、イスラエル側の論理に力点が置かれすぎていた、ということです。

で、この番組を「中和」する、すなわちパレスチナ側の論理も知ってもらおうではないか、という問題意識にもとづいて、以下のような番組が今度の土曜日に放送されるようです。
「土曜日の夜の教育テレビ」という視聴者がもっともチャンネルを合わせないような枠で放送されるのが残念です。とはいえ、ただただNHKはダメだと思い込むのではなく、NHKの内部でこのようなバランス機能が働くこともあるんだということを、知っておくのは重要なことだと思います。
以下、その「中和」する番組の概要をNHKオンラインから引用します。

ETV特集
「ルート181」――パレスチナイスラエル境界線からの声――
2005年12月24日 NHK教育テレビ 10:45〜 放送予定

今年秋、山形ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を受賞した「ルート181――パレスチナイスラエルの旅の断章――」(270分・2003年)。イスラエル領に生まれ育った2人の映画監督がカメラを携え、ともにイスラエルパレスチナの「境界線」をたどった旅のドキュメンタリーである。今秋、この映画を共同撮影・編集した2人の映画監督がそろって来日した。
パレスチナ人映画監督ミシェル・クレイフィとユダヤ人映画監督エイアル・シヴァンの二人。クレイフィはカンヌ国際映画祭批評家賞を受賞した作品「豊穣な記憶」(1980年)でパレスチナ人の生活を追い、シヴァンは「スペシャリスト:自覚なき殺戮者」(1999年)でナチスドイツ高官のアイヒマン裁判を描いた。その二人が出会って、総決算ともいえるドキュメンタリー「ルート181」を制作した。
ルート181」とは、ふたりが名づけた1本の道。その由来は、国連決議181号で定められた分割線である。ふたりは、「181号」線上を車で走る。その過程で、出会う人々は、モロッコ出身のユダヤ人、ハンガリーからのユダヤ新移民、イスラエル国籍のパレスチナ人、中国人労働者たち──。かれらの肉声と暮らしから、「占領」という現実と、「占領者」として生きる人々の弁明を探ってゆく。
来日する2人は、日本の哲学者・思想家・作家・市民との対話を通して、パレスチナ問題が、日本に関わりのない「遠い場所」のことではなく、世界和平に向けた普遍性を持っていることを浮き上がらせた。
番組の構成は、映画「ルート181」の主要シーン、ふたりの監督へのインタビューと日本の識者との対論、市民とのシンポジウムでの討論によって作られる。イスラエルのガザ撤退が行われ、世界の注目を浴びた2005年の中東和平問題。その概観と今後の見通しを、一編の映画をひもとき、「境界線」上の現実を探ることで考えてゆく。(NHKオンラインより)

これをつくった番組ディレクターは、この夏に「ZONE――核と人間」というNスペや、サイードの番組など、興味深い番組をつぎつぎにつくっている方です。ハズレはありません。ぜひご覧になってください。